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浜田広介『よぶこどり』を読んで。愛することとその代償について

ハウスダンスインストラクター万里の日記
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ニキビが出来たので、近所の皮膚科病院に行ってきました。

そこの待合室で読んだ絵本が、まぁ泣きに泣けて。

「なんで大の大人が絵本読んでるんだよ」

とか不思議に思われそうなので補足しますが、ほら、僕って極度の怖がりじゃないですか。

皮膚科とはいえめちゃくちゃ緊張していたので、本でも読んで心を落ち着けようと思ったんです。

ということで読んでたのが『よぶこどり』って絵本。

リスが幸せそうに卵を抱えている表紙。聞いたことないタイトルでしたが容易にストーリーは想像できました。

この絵本、僕の大好物な『ドタバタ・ハートフル系』のハズなんですよ。

今は副業のプロダンサーが忙しいですが、僕の本業は絵本ソムリエなんでね。

以下、僕の想像した『よぶこどり』のストーリーです。

ーーーある冬の入口のこと。

冬眠の準備をしているリスは卵を見つけました。

「こんなに大きな木の実は見たことがないわ。これだけあればお腹が減ることもないでしょう」

木の実と勘違いしたリスは巣穴に卵を持ち帰ります。

誰にも取られないよう卵を大事に抱えて寝ていると、やがてヒナが孵りました。

「うーん、ママ?」

どうやらヒナはリスを親だと思っているようです。

「まいったな、私はママじゃないんだけど…」

動揺しながら、リスもまんざらではありませんでした。

なぜならリスは一人ぼっちで過ごす冬眠がいつも寂しかったのです。

しかし今年はこのヒナと二人で過ごすことになります。

話し相手が出来て、もう寂しくありません。

「…よし!」

リスはヒナを子供として育てる事を決意しました。

それはとても大変で、だけどとてもとても楽しい冬眠になりましたーーー

的なハートフル・ドタバタ系ストーリーを想像したんですよ。

「エサは頬袋に詰めなさい」
「ママ、そんなにお口に入らないよぅ…」

なんてやりとりとかあって、読み聞かせてるお母さんもクスッと笑えるやつ。

なんだかんだで二人は冬眠期間中に一睡もできなくて、春の木漏れ日の中で仲良くお昼寝して。

そして二人で同じ夢を見るんです。

『リスが鳥(ヒナ)の背中に乗って冒険する』なんて夢を。

病院の待合室にある絵本て大抵そんな感じじゃないですか。

そう思って読んだんですが、実際のお話は1ミリもドタバタしてませんでした

まぁ切なくて切なくて。

まぁ泣けて泣けて。

愛とはなんて儚く、そして美しいのだろう、と。

絆とはなんて脆く、そして強いのだろう、と。

読み聞かせてるお母さんも号泣するレベル。

本当のストーリーをザッと説明します。

ーーー『よぶこどり』は一人ぼっちだったリスが拾った卵を温め、ヒナを育てる物語。

リスは孵ったヒナに『カッコウ』と名前をつけて愛情をそそぎます。

ある日、ヒナはリスが本当の親でないと気付き本当の親を探しに旅立ってしまいました。

リスは朝から晩まで、何も食べずヒナをじっと待ち続けます。

しかしヒナは帰ってきません。

「鳥になれればあの子を探しに行けるのに」

そう願うリスの身体は痩せ細り、いつしか鳥の姿になっていました(直接の表現はありませんでしたが、リスは死んで鳥に生まれ変わったのでしょう)

鳥になったリスはヒナを探しに旅立ちます。

「カッコウ、カッコウ…」

我が子を探し続ける鳥を、みんなは『よぶこどり(呼子鳥)』と呼びました。

その声はとても悲しげで、今でも山の中に響いていますーーー

これ読んでどうすりゃいいんだよ。

泣くしかないだろ。

僕の説明だときっと100分の1も伝わってないんで、みなさん実物を読んでください。ホント泣けるんですよ。

特に切なかったのは序盤と終盤のコントラスト。

このリスはものすごく歌が上手で、物語の序盤で夜泣きするヒナのために子守唄を歌うんです。その優しい歌声は山中にこだまして、聞いたみんなが幸せな気分になるんですよ。

だけども終盤で山にこだまするのは我が子を呼ぶリス(呼子鳥)の悲しい声。

どちらも親が子を想う声なのに、全く正反対の印象なんですよ。

なにこのコントラスト。

泣かざるをえないだろ。

これ書いた人は天才だろって作者名を確認したら『浜田広介』とありました。

浜田広介…?

!!

日本童話界の神様じゃねぇか!

なるほど納得。

浜田広介の超有名な代表作を挙げると

『泣いた赤鬼』

『椋鳥(ムクドリ)の夢』

などがあります。

どれも読んだ後に泣くヤツで、やはり幼心に「どうすりゃいいんだよ!」と号泣したのを覚えています(ちなみに『泣いた赤鬼』に「できるだけ良い事ばかりしてみたい」という赤鬼のセリフがあるのですが、これは僕の人生の標語になりました)

「万里さーん、診察室にお入りくださーい」

感動に打ちひしがれていると名前を呼ばれました。

「万里さん、今日はどうしまし…本当にどうしたんですか!?

カルテから目を上げた先生は僕を見て驚いていました。

僕、涙で顔グッシャグシャだったんですね。

「いや、なんでもありません。ニキビが出来たのでお薬を下さい」

「えぇ…(困惑)わかりました。診てみましょう。あぁ毛包炎ですねコレ。この大きさなら薬で十分です」

「よかった」

ホッとした僕に先生は続けます。

「ただ、泣くほど痛いなら手術してすぐ取りましょう」

どうやら痛くて泣いてると思われたようです(前回、僕はこの病院で手術した時に泣いてしまったので先生に泣き虫のイメージを抱かれています)

このままじゃ手術されそうだったので事情を説明しました。

待合室で絵本を読んだこと。

リスの愛が本物だったこと。

血の繋がりを超えた親子の絆があること。

愛はこの世で最も人を幸せにし、この世で最も人を苦しませること。

『愛すること』に見返りはありませんが、代償は確実に存在します。

その代償とは、傷つくこと。

この世に永遠はなく愛する対象も必ず消失するため、『愛すること』は必然的に『傷つくこと』にならざるをえないのです。

愛が深ければ深いほど、失った時の傷も深くなります。

きっと生き物に『愛すること』をプログラミングした神様はとても慈愛に満ち、そして残酷な性格だったに違いありません。

しかし神様がこの『愛すること』に何か意味を込めたならば、我々は愛し、失い、傷つき、それでもまた何かを愛さなければならないのでしょう。

そしてその残酷なサイクルから学ばなければならないのです。

傷つき涙が溢れ出した後、私たちの心の底には『何か』が残るはずですから。

そう、パンドラの箱から厄災が溢れ出し最後に『希望』が箱の底に残ったように。

その『何か』こそ神様が我々に与えたかったものであり、真の意味での『愛の結晶』なのだから…

…的なことを説明すると、聞き上手な先生は頷きながら聞いてくれました。

そして先生は静かに口を開きました。

「わかりました」

わかりました?

「万里さん、私の知り合いの病院があるんですが行きますか?」

はい?

「赤坂にある心療内科なんですけど…」

思いきり心配されとるー!

先生聞き上手っつーかカウンセリングー!!

まぁ、結果ドタバタしましたね。

【絵本ソムリエ通信】

ブログ内では冗談ぽく書きましたが、浜田広介先生の『よぶこどり』は本当に素晴らしいお話です。

いもとようこさんの優しいイラストも大変素敵で、見ているだけで心がポカポカと温かくなりました。

子供への読み聞かせはもちろん、自分への心の栄養としてもおすすめです。

みなさんもぜひ読んでください。

そして絵本を閉じた時に耳を済ましてください。

リスの子守唄が、そして子供を呼ぶ声が心の中に聞こえてくるはずですから。

ハウスダンスインストラクター万里の日記
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