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褒めてください

ハウスダンスインストラクター万里の日記
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茹だるように暑い午後3時。

細い路地を通ってスタジオに向かっていると向こうからおばあさんが歩いてきました。

大声を上げながら。

僕の前を数人の女性が歩いていたのですが、おばあさんは彼女達とすれ違うたびに立ち止まり、睨みつけて怒鳴っていたんです。

最初は怒っているのかとおばあさんの発言をよくよく聞いてみると

「オシャレな服だねぇっ!まるでお人形さんみたいっ!似合ってるよ!」

「あらまぁっ!なんてキレイなのっ!!モデルさんかと思った!」

大声で褒めちぎっているだけ

でした。めちゃくちゃイイ人でした。

「(やれやれ、僕も褒められるなぁ)」

最初は戸惑いましたが悪い気はしません。

だって大人になると人から褒められる機会が激減するじゃないですか。

だけど僕だってたまには褒められたい。

というか大人だって褒められたいんです、本当は。

褒められてイヤな人はいませんから。

すれ違いざまに野球のヤジを飛ばすトーンで褒められたらちょっとビビるけど、それでもやっぱり嬉しいし元気が出るのです。

もしかしたら今の日本に必要なのは、このおばあさんのように無差別に褒めてくれる存在なのかもしれませんね。

そう思いおばあさんに近づくと予想もしていない展開になりました。

すれ違う瞬間、急に黙って目を逸らしたんですよ。

おかしいって。

なんで僕の時だけ『コイツ触れちゃヤバい』みたいな空気出してるの?

アンタ無差別に褒めるんじゃないのかよ。

絶対に褒められたいので、というか褒められなきゃ泣きそうだったので、おばあさんの前で立ち止まって「アレ?どこだっけ?」とか言いながらバッグをガサゴソして忘れ物探す小芝居をしてみました。

おばあさんも絶対に褒めたくないみたいで、自分のバッグをガサゴソしはじめました。『え?バッグの中で生クリームでも泡立ててるの?』ってくらい。

おかしいって。

なんで僕の時だけ『オマエ早くどっか行け』みたいなオーラ出してるの?

そうか、男性は褒めないんだな。そうに違いない。そうじゃないと泣いちゃう。

このままでは誰も幸せにならないと察した僕は諦めてその場を去ることにしました。

しばらく歩くと再び背後からおばあさんの大声が聞こえてきたんです。

「お兄ちゃんカッコいいねぇっ!暑いのに仕事かいっ?えらいっ!お水をたくさん飲むんだよっ!」

「(…やっと褒めてくれた!)」

きっと男性は至近距離で褒めないだけだったのでしょう。

そう思い満面の笑みで振り返ると予想もしていない展開になりました。

おばあさんは僕の後ろを歩いていたスーツの中年男性を褒めていたのです。

おかしいって。

絶対におかしいって(目に涙をためながら)

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