知人に犬と猫を飼っている女性がいます。
彼女は自家製の柚子ジャムをくれるので、仮に『ユズさん』と呼びましょう。
日曜日、ユズさんとお会いした時のこと。
「ウチの犬が亡くなったの」
彼女はポツリと言いました。
18歳のカニヘンダックス。犬の18歳って人間で言えば90歳。大往生ですよね。
最後の夜、愛犬はユズさんの布団に潜り込んで一緒に寝て、朝になったら旅立っていたそうです。
それを聞いた時、泣きそうになりました。
悲しいって感情もあるけど、それよりも温かい気持ちで胸がいっぱいになったから。
だって飼い主も犬も最後の思い出が『一緒に寝た』なんて最高じゃないですか。
それこそ2人にとって『夢のような時間』だったに違いありません。
思い出話をするユズさんは本当に優しい顔でした。優しい声でした。
その時、彼女の中に愛犬の存在を感じたんです。
出会いと別れ。笑顔と涙。
愛犬と過ごした時間や感じた事の全てが複雑に絡まり合って、今のユズさんの人間性を構成しているのだと。
『心の中で生きている』という言葉の、本当の意味を初めて理解した気がしました。
これからも愛犬は彼女の中で生き続けていくのでしょう。
うまく説明出来ないけど、穏やかに話す目を見て、声を聞いて、僕はそう感じたんです。
あぁ、ちくしょう。
伝えたい。伝えたくて仕方ないよ、ユズさんの愛犬に。
あなたのご主人、めちゃくちゃ良い人ですよって。
優しくて、温かくて、素敵な人ですよって。
あなたのおかげです。あなたと過ごした時間が彼女の中に生きています。あなたと共に彼女は生きていますって。
僕がこんな事を言うと
「そんなの知ってるよ!」
とシッポをブンブン振りながら吠えられるかもしれないけど。
夜、自宅でユズさんから頂いた柚子ジャムを食べたら相変わらず優しい味がして。
そしたら柔らかな日差しの中を仲良く散歩する2人の姿が頭に浮かんで、温かい気持ちで胸がいっぱいになって。
気がついたらちょっとだけ、泣いていました。