「先生、一つ聞いていいですか!?」
レッスン後、熱心に振り付けを復習している生徒さん達に声をかけられました。
今日は難しいステップが多かったので苦戦したのでしょう。
試行錯誤しながら難題に挑戦する生徒たち。
彼女達のひたむきな姿はインストラクター冥利につきるものでした。
「いいですよ。どうしましたか?」
「今日のピンクのシャツ、オシャレですね!」
全然ダンス関係ねぇのな。
しかし服装を褒めてもらえるのは嬉しいものです。ありがとう、と笑顔でお礼を伝えました。
「でも珍しいですね。先生がその色を着るなんて」
「実は僕、ピンクが大好きなんですよ」
「なんか意外」
「じゃあ少しだけお話ししましょうか。僕とピンクの思い出を…」
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大学生時代、ピンクの服装にどハマりした時期がありました。
きっかけは超単純。2年生の頃、ゼミで憧れだったA子さん(仮名)が食堂で「ピンクの似合う男性ってカッコいいよねー」と言っていたのを耳にしたから。
それ以降、A子さんに近づきたい僕はバイト代を全てはたいて帽子、時計、シャツ、ジャケット、パンツ、スニーカー、バッグ…とにかくピンクのアイテムばかり集めました。
半年後、A子さんから声をかけられました。ビバ青春。
「万里くんって林家ペーみたいだよね」
林家ペー…聞き間違いかと思いましたが、窓ガラスに映る自分の姿を見て納得しました。
いつの間にか全身ピンクのコーディネートになってたんですよ。
今思えば『ピンクの似合う男がカッコいい』のではなく『カッコいい男はピンクも似合う』、もしくは『カッコいい男はピンクの使い方が上手』なんですね。
ウワベばかりを真似してもカッコいい男にはなれませんでした。当時の僕は気が付かなかったけど。
それ以降A子さんと会っていません。会えるかボケ。グッバイ青春。
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「…なんてことがあってね。それ以降、Tシャツなど大きい部分には薄いピンクを、小物などワンポイントには濃いピンクを使う程度に抑えているんです」
「へー。今はピンクの似合う男になりましたよ!」
「ありがとう。ピンクがきっかけで皆さんとお話ができたので、学生時代に『林家ペー』と呼ばれたのも無駄ではなかったのかもしれませんね」
「もう一つだけ質問いいですか?」
「なんでしょう」
「私、こないだムラサキのTシャツを買ったんですけど全く似合わなかったんですよ!」
それ質問じゃなくてお前の近況報告だな。
ーーー結局この生徒さん達とダンスの話は一切しませんでした。
しかしダンスを通じて多くの人達と色んな会話ができのも、やはりインストラクター冥利に尽きるものなのです。