スポーツクラブ【メガロス】でのオンラインレッスンで1つだけ問題があって、それは僕が『オンラインレッスン未経験者』という事でした。
そこでレッスンが決定した日から数回にわたり、友人にオンライン模擬レッスンに付き合ってもらって改善点などのアドバイスを貰うことにしました。
「え?オンラインレッスンてリアルレッスンをそのまま流せば良いんじゃないの?」と思っている人もいるかも知れませんが、リアルとオンラインは全くの別物なんです。
ざっくり説明しましょう。
みんなが同じ環境で踊るのがリアル。
『同じ部屋の同じ床、同じスピーカーから聞こえる音楽で同じ鏡を観ながら踊る』ということですね。
それに対して、オンラインでは参加者によって踊る環境が異なります。
『床がフローリングの人もいればカーペットの人もいる。靴下で踊る人もいればシューズを履いてる人もいる。スマホとパソコンでは見えている画面の大きさ(視覚情報のわかりやすさ)が全く違うし、デバイスによってスピーカーから聞こえる音が割れたり小さかったりする』ということです。
だからオンラインでの振り付けや選曲は、みんなが異なる環境でレッスンに参加してると想定して構成しなければならないのです(今回のレッスンで使用したオリジナル曲が中音域メインだったのも再生デバイスの違いによる音割れを防ぐためでした)
「そこまで気にしなくていいんじゃない?」と思うかもしれませんし、実際ここまで気にせずにオンライン配信している人も沢山います。
しかし『神は細部に宿る』の言葉の通り、こういう細かいところにレッスンのクオリティ差が出てくるんです。
そして生徒さん達も、こんな小さな気遣いから「あぁ、先生はここまでこだわってるんだ。そこまで私達のことを考えてくれているんだ」と敏感に感じ取ってくれるもんなんですよ。
「ーーということで、レッスンに付き合ってもらっていい?」
「いいけど、俺ダンスしたこと無いよ?」
「ダンス経験の無い人からの率直な意見が欲しいんだよ。どんどん言ってね。信用してるから!」
「おう!任せとけ!」
どうやら僕の『信用してるから』の一言が嬉しかったらしく、友人は俄然ヤル気を出してノートにメモをとりながらレッスンを受けてくれました。
ーーーそして模擬レッスン終了。
「お疲れ様!で、どうだった?」
「オンラインレッスン楽しかったよ!ただレッスンは問題ないんだけどさ…」
「けど?」
「レッスン内容は問題なかったんだけど、最初の注意点の説明。『周囲に障害物がないか確認しましょう。ペットを飼ってる人は猫ちゃん、ワンちゃんを踏まないように気をつけてください』てやつ」
「うん。ダメ?」
「あれ、イグアナも追加しようよ」
「(ナニ言ってるんだコイツ…)」
言葉を失っていると彼は続けました。
「万里さ、『参加者のレッスン環境を全て想定する』って言ってたじゃん。イグアナ飼ってる人がいるかもしれないよ」
明らかに極論なんですが、その時は彼の迫力に負けて言いなりになってしまいました。
「『猫ちゃん、ワンちゃん、イグアナを踏まないように気をつけてください』で、いいかな?」
「ダメダメ、イグアナにも『ちゃん』つけろよ。お前は冷いなぁ。イグアナよりもずっと冷血動物だよ。そういう些細なところで『あぁ、万里さんは爬虫類を差別するんだ』と思われちゃうよ、みんなに」
明らかに暴言なんですが、彼の『なんかうまい事言った感』に負けて何も言い返せませんでした。
「あとさ…」
「あと?」
「あと万里のヒゲがダメ」
「(本当にナニ言ってるんだコイツは…)」
完璧に人選を間違えたかと思い言葉を失っていると彼が続けました。
「参加者の中には古いスマホやパソコンの人もいるじゃん」
「多分いるけど、それがなんだよ」
「古いマシンのモニターだと画像が荒くなるから、ヒゲがあると顔全体が暗い印象になっちゃうんだよ。せっかくダンスが楽しいのにもったいないよ。印象を明るくするためにヒゲ剃ろうぜ」
「お、お前…」
想像以上にまともなアドバイスだったので親友を疑った自分が恥ずかしくなりました。やはり僕の人選に間違いはありませんでした。
というわけでヒゲを全部剃りました。
一瞬、オンラインレッスンで「ヒゲどうしたんですか?」なんて質問攻めにあうと思ったんですが、みんなが楽しめるためならトレードマークの1つや2つ執着ナシに捨てられるんでね。それが僕なんでね。
ーーーそらから何度も模擬レッスンを繰り返し、準備万端で臨んだレッスン当日。
オンラインレッスンは大盛況&大好評で終わりました。
最後に振り付けを踊りきって「今日はここまで!ほんとうにお疲れさまでした!」と僕が言うと参加者のみんなが拍手をしてくれたんですよ。
レッスンの進行上、参加者からのサウンドはミュートにしていたにもかかわらず、僕の耳には拍手の音がハッキリ聞こえました。
そしてレッスン後、参加者のみなさんからレッスンの感想などをチャットで頂いたのですが「楽しかった!」「いい汗をかきました!」「また参加したいです!」などのご意見を目にした時、本当に大げさな表現ではなく、嬉しくて泣くかと思いました(特に『初めてだったけど楽しかった』というご意見は本当に嬉しかったです)
ーー誰かの笑顔を想像しながらダンスを作り、そしてそのダンスで誰かが笑顔になってくれるーー
みんなを楽しませたくてダンスレッスンをしている僕にとって、「楽しかった」という言葉ほど嬉しい感想はありません。
「(細部までこだわって良かった。こだわりの一つ一つは地味で目立たないかもしれないが、それらは複雑に絡み合い、そして確実にみんなを楽しませることができたんだ)」
そんな想いで胸がいっぱいになりました。
リアルとオンラインは勝手が全く違いましたが、この感動だけはリアルもオンラインも等しく尊いものでした。
しかし気になった点もありました。
ヒゲもイグアナも一切触れられなかったんですよ。
細かすぎて、誰もこだわりを感じ取れなかったのかもしれませんね。
これは想定外でした。