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小さな捨て猫が大切な家族になった日

可愛いネコの写真
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「大河ちゃーん」

窓際で日向ぼっこしている大河(猫)に母が声をかける。

大河は振り返りもせず短い尻尾を2回振るだけで返事を済ます。

それを見て母は毎回「大河ちゃん、そうなのー」と答える。

これが毎朝の光景。

「…母さん」

「なに、万里」

「いつも不思議なんだけどさ、大河が尻尾を振るたびに『そうなのー』って同意してるけど大河なにも喋ってないよね?」

「なに言ってんのよ。ちゃんと喋ってるわよ。頭に直接聞こえるの。もしかしてアンタ聞こえないの?」

「幻聴じゃねえか」とノドまで出かかりましたがグッと堪えて質問を続けます。

「あぁ、聞こえなかったかもしれない。ちょっと知りたいんだけどさ、大河は毎回なんて喋ってるの?」

「あら、知りたい?」

「うん、知りたい」

「それはね…」

「それは?」

「『母ちゃん、だーい好き』って言ってんのよ」

「やっぱり幻聴じゃねえか!」

…こうして最終的に僕と母の大ゲンカになるまでがお約束のパターンなのですが、それくらい母は大河にメロメロなんです。

そんな母も最初は猫を飼うのに猛反対していて「名前を呼ぶと情が移る!」と頑なに大河を『あの子』とか『あの猫』と呼ぶくらいのアンチ大河でした。

今回のブログでは大河が初めて我が家に来た日の話、頑固でしょーもない母とウソつきでしょーもない僕、そして可愛くてしょーがない大河の話をしようと思います。

少し長いですが、付き合ってくれると嬉しいです。

(この記事は旧ブログで好評だった『母が名前を呼んだ日』を再編集したものです)

ーーあれは15年前、雪まじりの雨が降る12月の深夜でした。

江戸川の土手で拾った2匹の子猫『大河』と『シノ』をパーカーのポケットに入れ自宅へ向かう僕の足はものすごく重いものでした。

その原因は猫達が重かったわけじゃなく、

(この子達を家族として迎える為には母を説得しなければならない)

というプレッシャーが足取りを重くしていたんです。

母は猫が嫌いなうえに『超』がつくほどの頑固者。

僕が小学生の頃に父が突然もらってきたペルシャ猫を飼う時も不満ばかり口にしていました。

そんな母が猫を飼うことを許してくれるのだろうか。

しかも2匹。

(もしかしたら僕も捨てられるかもしれないな)

自宅が近づくにつれて僕の足はどんどん重くなっていきました。

帰宅したのは午前1時過ぎ。

深夜なので静かに玄関の扉を開け、物音を立てないよう靴を脱ぎ、そのまま母の寝室に向かいました。

(もし母さんが熟睡していたら明日の朝に話し合おう。一晩でも猫達を我が家に置けばかなり交渉が有利に運べるはずだ)

母の部屋の前に立ち『どうか寝ていますように』と願いながらドア越しに話しかけました。

「母さん」

「…」

「寝てる?」

「寝てる」

(アンタ起きてるじゃねぇか)

僕は覚悟を決めて説得、というか交渉に入りました。

「あのさぁ、猫って可愛いくない?」

『絶対だめ』

リターンエースで交渉決裂。

だけどここで諦めたら再び仔猫達を捨てることになる。

それだけは絶対に避けなきゃいけない。

この子達はあんな寒い中、小さなダンボール箱に毛布も無く2匹で寄り添いながら鳴き続けていたんだ。

それを僕が見つけ、2匹の身体を温めてしまった。人の温もりを覚えさせてしまった。

その温もりをこの子達から再び奪うなんて残酷過ぎるだろ。

生まれて間もないのに、こんな短期間で2度も人間に捨てられるのかよ。

そんな救いの無い世の中じゃ夢も希望もないじゃないか。

…絶対に母を説得しなければならない。

そう覚悟を決めて交渉を続けました。

「いや僕は母さんと猫がどれだけ可愛いかについて語り合いたいだけだよ。ダメとか意味わからないよ」

「猫は可愛いけど絶対に飼っちゃだめ」

「飼うとか言ってないじゃん…」

「どうせ飼いたいんでしょ」

「…」

「…」

ニャーン

沈黙を破るように大河が鳴きだしました。

「ちょっとナニ拾ってきてんの!?」

顔は見えなくとも声を聞いただけで母の怒りが伝わってきます。

『あ?えーと、亀?

本当にしょーもないんですが、当時の僕は焦るとしょーもないウソをつくクセがあったんです。

そしてそのしょーもないウソは当然のように即バレして「絶対に猫でしょうが!」とドア越しから聞こえる母の声には更に怒りが込められました。

「何匹拾ってきたの!?」

「あー…うん、1匹」

咄嗟にウソにウソを重ねてしまいました。

この時の僕はきっと脂汗を垂らしながら目が泳いでいたと思います。

ちなみに膝は確実に震えていました。

(どうやって切り抜けよう…)

ニャニャーン

頭をフル回転してるところにシノ君も鳴き出して「2匹いるじゃない!」と母は怒りながら部屋から出てきました。

そこからみっちり説教タイムスタート。

その時の僕は雨に濡れていて、でも二匹の子猫は冷やしちゃいけないとお腹に抱えてうつむいたまま正座の姿勢で説教されてたのですが、その絵面は完全に小学生そのものでした。

僕は泣きそうになりながら、というか泣きながら必死に説得したけど母は断固として猫を飼うのに大反対でした。

しかし僕の粘り強い交渉(ほとんどダダっ子のワガママみたいな感じでしたが)の結果

『子猫達を飼うことは出来ないが里親が見つかるまでなら家に置いても良い。そのかわり僕の部屋から子猫達を一切出さず、面倒も全て僕が見る』

といった【一時預かり】という形でなんとか承諾を得ることができました。

しかしこれでも母は不満だったらしく「母さんありがとう。あ、この子達の名前はね…」と言うと「名前なんかつけたら情が移るから絶対にやめなさい」と名前すら聞こうとせず、猫達をチラッと見ただけですぐ寝室に戻ってしまいました。

(この落とし所が限界だったんだ)

そう自分に言い聞かせ、僕は大河とシノ君を連れて自室に戻りました。

そして翌日から子猫達の里親探しが始まったのです。

✳︎

片っ端から友人にメールしまくった結果、幸運なことにシノ君は数日で引き取り手が見つかりました。

シノ君を載せた友人の車を見送りながら母はポツリと「あとはこの子だけね」と呟きました。

「この子の名前は大河、ね。母さん」

話しかけても母は返事をしません。

相変わらず大河を飼う気はもちろん、名前で呼ぶ気もないみたい。

母は本当に頑固でした。

✳︎

それから1週間後。

仕事が遅くなり深夜なので物音を立てないようソーっと帰宅すると僕の部屋から母の話し声が聞こえてきました。

最初は電話でもしてるのかと思いドアの隙間から覗くと、母が「お名前は大河君っていうのー?カッコいいねー。万里は帰り遅いですねー。それまで私とあそびましょうねー!」と目をキラキラさせながら大河と遊んでいたんです。

そして大河が鳴く度に「そうなのー」と、いや、正確には「ちょうなのー」と答えていました。

「ちょうなのー」て。

完璧に赤ちゃん言葉じゃん。

僕が扉の隙間からニヤニヤしながら見ていたら母が気づいて「まぁ、こんな感じで」と言って気まずそうに部屋から出て行きました。

どんな感じなんだ?

一体なんのお手本を僕に見せたんだ?

瞬間で様々な疑問が頭をよぎりました。

でもあの夜、母は確かに名前で呼んでいたんです。

目をキラキラさせながら、「大河」って呼んでいたんです。

✳︎

「あの子を『去勢手術済み』にした方が里親見つかりやすいんじゃないの?」

翌朝母が提案してきました。

昨晩の一件で大河を家族として認めたと思いましたが、まだ【一時預かり】の約束は生きてるみたいです。

しかたなく覚悟を決め、僕と母、そして大河で近所の動物病院に行きました。

病院で先生に「どんな性格の子ですか?」と質問されたので「可愛い子です」と即答しました。

母が。

(やめてよ母さん先生困惑してんじゃん本当の事だけどあぁ大河は可愛いなぁ)

と心の中で叫びました。

そして先生から「この子、アレがついてないよ。メスです」と衝撃の事実を告げられた時も「アラー!知ってました」と即答しました。

やはり母が。

(なんだよ『知ってました』って今驚いてたじゃん『アラー!』って言ってたじゃん先生も笑うの誤魔化してすげぇ咳してんじゃん大河は女の子だったのかごめんね男らしい名前付けてでも可愛いよ大河って名前も)

と、やはり心の中で叫びました。

そんなやりとりを経て手術も無事に終わり帰宅すると、母は麻酔でグッタリした大河の頭を優しく撫でながら

「この子を置いとくのは里親が見つかるまでだからね」

「早く貰い手を見つけて来てね」

「この子の飼い主は優しい人がいいね」

「大河、早く元気になるといいね」

と泣きそうな顔をしながらボソボソと口にしました。

そのセリフは僕と大河のどちらに向けてなのかはわからないし、もしかしたら誰に向けたわけでもないのかもしれません。

でも、僕はその言葉を聞いて

(そんな顔するなら素直に家族にしちゃえば良いのに)

と思いました。

大河の事ももう名前で呼んでるし。

ほんとに母はしょーもないほど頑固でした。

✳︎

数日後、僕が部屋で元気になった大河と遊んでいたら以前シノ君を引き取ってくれた友達から電話がかかってきました。

「どもー万里くんー!」

「おー!シノ君は元気ですかー?」

「元気元気ー!ところで大河くんだっけ?まだ里親募集してる?知り合いも子猫欲しがっててさ」

「あ…」

胸の奥がチクリ、としました。

ずっと望んでいたセリフのはずなのに、すごく胸が苦しい。

どうしよう。

「あー…すみません、大河の里親決まっちゃいました!

焦った僕はついウソをついてしまいました。

本当に本当にしょーもないクセですが。

「そっかー、ざんねーん!知り合いに伝えとくよー!」

「はい!よろしくお伝えください!」

電話を切った後に背後に気配を感じて振り返ると、ドアの隙間から母が僕を見ていました。

ーー終わった。

直感的にそう覚悟しました。

(電話を聞かれた。ウソをついたのもバレた。絶対に怒られる。大河も捨てられる)

母は無言で部屋に入り、言い訳を考える僕の横を通り過ぎ、大河を抱き上げながら話しかけてきました。

「大河はまだ里親見つからないの?困ったわねぇ」

そう言った母の表情は全然困っていない、というかむしろ嬉しそうな顔してました。

ーーあぁ、そうか。そうだったんだ。

僕のウソもわかりやすいけど、母のウソもわかりやすいなぁ。

ホント、親子でしょーもないクセだなぁ。

そして大河がニャーと鳴いて。

やっぱり母は『ちょうなのー』と答えて。

普段なら「何がそうなのだろうか?」と疑問に思うところですが、この時だけは僕にも大河が母になんて言ったか解った気がしました。

きっと大河は母に

「素直じゃないんだから」

と言ったんだと思うんです。

母にはなんて聞こえたか解らないけど。

その日を境に母は堂々と大河の名前を呼び、大河は堂々とリビングや他の部屋を歩き回る(荒らし回る)のでした。

あんな頑固な母すら虜にする大河の魅力って本当にスゴいよね。

僕の交渉術なんて足元にも及ばないよ。

ーー母はそれから15年経った今でも大河が日向ぼっこしてるとたまに

「アンタは里親募集中なんだからね。居候なんだからね」

と話しかけています。

大河もそのセリフに慣れたみたいで、以前のようにニャーなんて鳴きません。

振り向きもせず背中を向けたまま短い尻尾を2回ほどピピッと小さく振る程度で返事を済ましてます。

まるで熟年夫婦みたいなコミュニケーション。

そのリアクションを見て母は相変わらず「大河ちゃん、そうなのー」と答えています。

嬉しそうに目を細めながら。

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