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大河と僕のショートショート

可愛いネコの写真
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今回は皆さんに、ある猫の物語をお話ししようと思います。

まずはこの写真をご覧ください。

大河の大人の写真

この物語の主人公、大河(タイガ)です。

ワガママなくせに寂しがり屋。

臆病だけど家族にはめっぽう強い内弁慶。

ポッチャリ体型で、シッポがお団子になってる可愛いトラ猫です。

みぞれ混じりの雨が降る寒い夜、江戸川の橋の下でダンボール箱に捨てられていたのを拾いました。

そうだよ。捨て猫だったんだよな、大河。

もう完全に家主みたいな貫禄だったので忘れてました。

大河とパーカーのポケット

大河と出会った時のことは今でも鮮明に覚えています。

箱開けた瞬間、手のひらサイズの小さな茶トラが「シャーッ!」って威嚇してきましたからね。

「え、抱っこしろって事?」

「シャーッ!」

抱き上げると威嚇。

「え、降ろせって事?」

「シャーッ!」

降ろしても威嚇。

どうすりゃいいんだよ。

子猫のくせに人間に媚びないストロングスタイル。『拾ってくださいオーラ』を全く感じさせません。

寂しくて警戒心が高まってるのかな?子猫ってもっと可愛いもんかと思っていたのに。

どうしたら良いか分からず立ち尽くしていると、子猫は威嚇しながら僕のジーンズをよじ登ってきました。

そしてパーカーのポケットに潜り込み、ゴロゴロとノドを鳴らして寝てしまったのです。

やだ、すごい可愛い。

なにこのツンデレ。策士なの?

ポケットの中の子猫はすごく温かくて、その体温が僕の全身に染み渡った気がして。

なんというか、すごく幸せな気持ちになったんです。

僕は子猫を『大河(タイガ)』と命名し、そのまま家に連れて帰りました。

大河と名前の由来

名前の由来をよく聞かれます。

由来は大きな河で出会ったし、トラ柄だし、武闘派だし。

そして

「トラのように強くなってほしい」

そんな願いを込めて大河(タイガ)と名付けました。

僕はこの名前が男らしくてすごい気に入っていたのですが、大河がメスだったのは盲点でした。

でも、やはり大河はトラのように強く育ったので僕の願いは叶った、という事で結果オーライなのです。

大河と家族の順位付け

一緒に暮らしていくうちに大河は僕にベッタリ懐いて毎日ゴロゴロ鳴きまくって仕事に行く時も追い鳴きしてもう大変!的な生活になると思ったんですが、全くなりませんでした。

ベッタリどころか、大河は二週間とかからず家族順位のトップに君臨したのです。

強気な性格とツンデレっぷりで最初に僕、次に姉、母、最後に父を陥落。

初めて会った時に威嚇してきたのは「寂しいから」とか「警戒心が高まってるから」と思っていたのですが、そんなの全く関係なかったっぽいです。

大河と夜のトイレ

大河が強気な性格になったのは生まれ持っての性分もあるのですが、きっと僕の育て方にも原因があったのでしょう。

簡単に言えば、可愛がりすぎました。

これには理由があるんですよ。

大河を拾った翌日、書店で猫関連の書籍を探していると、ある雑誌に

『猫は猫かわいがりをしても問題ありません。心置きなく愛情をたっぷり注ぎましょう』

と書いてあったんです。

「なるほど」

納得した僕は全身全霊をかけて、限界まで可愛がってみました。

「きっとワガママなお嬢様になるだろうなぁ」と想像していたのですが、結果は『ワガママな女王様』になってしまいました。

でも扱いづらいほどワガママだったかというとちょっと違くて、正確にいうと『面倒見の良いワガママな女王様』でした。

3•11の大震災で、僕の地域が計画停電をした時のこと。

夜、真っ暗なトイレに行くのが怖くて、寝ている大河を抱っこしながらトイレまで行ったんです。

それ以降、僕がトイレに行くと大河は必ずついて来てくれるようになりました。

なんて頼り甲斐のある猫なのでしょうか。完全に僕のボスです。

その日からですよね。

僕が大河を呼ぶ時は『さん』と付けるようになったのは。

大河と瀕死のセミ

今考えると、大河は僕の事を『飼い主』ではなく『世話のかかる子供』と認識してたと思います。

夏になると、毎朝大河は瀕死のセミを僕の枕元に置いていました。

しかも鳴くんですよ、セミ。

ちょっとした目覚ましでしたね。

当時、大河の行動は僕に褒めてもらいたくてやったと思っていましたが、最近ネットで『猫は子供に狩猟を練習させるため瀕死の獲物(昆虫など)を与える』と言う記事を読んで衝撃を受けました。

あのセミは僕に狩りを覚えさせたくてやってたのか。

てことは、捕まえてきた虫を逃す度に大河は僕を「瀕死の虫にも逃げられるとか、この子どんだけポンコツなのかしら」と憐れんでいたのか。

たしかに「やれやれ」みたいな顔してたわ。

でも、おかげで夏が来ると枕元にセミがいないか確認するクセがつきました。

このクセが人生で何の役に立つか分かりませんけど。

大河と部屋の巨大クモ

虫といえば、ある晩、部屋に巨大なクモ(アシダカグモ)が出たことがあったんです。

あまりの恐怖に大河に助けを求めました。

人間が猫に助けを求める時点で色々とダメな気もしますが、僕はクモ嫌いなので仕方ありません(というかアシダカグモは普通の人でもムリだよね。あいつら手のひらよりデカいもん)

でもそこは武闘派の大河さんのこと。クモなんて目じゃないぜ!と思っていたのですが、大河はクモを退治するどころか僕の後ろに隠れてクモと目を合わせません。

「大河さん!ほら、クモだよ!追い払ってよ!」

どれだけ呼んでも壁に顔を向けたままガン無視。

大河、壁に顔めり込んでない?大丈夫?

結局その夜は部屋はクモに明け渡して大河と二人でリビングで寝ることにしました。

一匹のクモに負ける猫と人間。

「今度クモに会ったら『さん』付けで呼ばなきゃな」

ヒンヤリと硬いフローリングの上。そう呟いて目を瞑りました。

大河とお気に入りの寝場所

『寝る』で思い出しました。

大河、僕と寝るのが大好きなんですよ。

僕が寝ているといつも胸の上、喉元、オデコ、頬の上で寝てました。

胸の上はまだわかるとして喉元と顔面は未だに納得がいきません。

もしかすると、大河は『僕と寝る』ではなく『僕で寝る』のが大好きだったのでしょうか。

大河にとって僕は子供であり、舎弟であり、座布団だったのかもしれませんね。

大河と腎不全

2018年8月。大河が12歳の時。

この夏、大河は元気がありませんでした。

あれほど好きだったチュールも食べず、押入れに引きこもったまま。

夏バテだろうと思い病院で検査した結果、

大河は

『腎不全』

でした。

老齢の猫に一番多く、死亡率も高い病気。

「できる限りの治療をしましょう。でも腎不全は猫の運命です。もしその時が来たら寿命だと思ってください」

目の前で喋っている獣医さんのセリフが、すごく遠くから聞こえた気がしました。

冷房の効いた診察室。

グッタリしている大河を抱き上げると温かかくて、拾った時のことを思い出しました。

でも、この温もりは『その時』が来たら僕の手から離れてしまう。

その現実が悲しかったんです。すごく、すごく。

大河と闘病

それからしばらく大河は通院しました。

病院から帰ると、大河は必ず部屋の壁に顔を向けて背中から『不機嫌オーラ』を全開で出すんです。

大河、やっぱり壁に顔めり込んでない?大丈夫?

どんなに名前を呼んでも無視。

機嫌を直してもらおうと、大好物のオヤツ『クリスピーキッス』を口元に持っていくと唸りながら食べ散らかすんですよ。

ヤケ食いかな?

それがものすごく人間くさくて、いつも家族で大爆笑していました。

その後は優しくブラッシング。

目を細めて気持ち良さそうな大河を見て「あぁ、この子も歳をとったなぁ」と感じました。

背中の骨がゴツゴツ浮いてて、毛もゴワゴワ。

だけど、それが愛おしくて。

初めて出会った子猫の時よりも、ずっとずっと愛おしくて。

大河がこの瞬間を生きている事に感謝しました。

「綺麗になったよ」

ブラッシングが終わると、大河はいつも僕の手を舐めてくれました。

まるで「ありがとう」と言ってるように、ゆっくりと。

お礼を言うのは僕らの方なのに。

大河の舌はザラザラしていて、とても温かかったのです。

2020年2月7日

亡くなる三日ほど前から、大河は寝たきりになりました。

目に力はなく、食事も少しだけ。

いよいよその時が近いと、家族の誰もが感じていました。

忘れもしない、2月6日の夜。

悔いのない最期にしようと、大河に今までの感謝を伝えました。

思い出話も沢山しました。

出会ったときの天気。

付けた名前の意味。

お気に入りの場所。

病院嫌いだったこと。

僕の脱いだシャツの上で寝るのが好きだったこと。

夏は僕の枕元にセミを置いたこと。

二人でクモにビビったこと。

トイレまで着いてきてくれたこと。

チュールとクリスピーキッスが好きなこと。

病院の帰りに見た夕日が綺麗だったこと。

初めて会った夜、ポケットの中で感じた大河の体温が僕の身体に沁みたこと……

僕は話しながらボロボロと泣いていました。

でも、大河に心配かけたくなかったので、精一杯の笑顔で話し続けました。

涙と鼻水でグチャグチャの笑顔。後半は嗚咽まじりで言葉にならなかったと思います。

側で聞いてた家族も、泣きながら静かに頷いていました。

家族もグチャグチャの笑顔でした。

そして翌日、2月7日の明け方。

出会った時とは真逆の暖かく晴れた金曜日でした。

大河は天国に旅立ったのです。

大河と僕のショートショート

大河がいなくなってから、今年で三年。

7日は大河の首輪を出して、家族と思い出話を沢山しました。

大冒険もロマンスもない、猫と人間の何気ない日常。

だけど一緒に過ごした時間は、どこを切り取っても面白くて、不思議で、最後は少しだけ切なくて……

まるでショートショートの小説を読んでるようでした。

主人公は大河。

ワガママなくせに寂しがり屋。

臆病だけど家族にはめっぽう強い内弁慶。

シッポがお団子になってる可愛いトラ猫のお話し。

僕の大切な物語でした。

この物語が、あなたが昔一緒に過ごしたペットたちとの日々を思い出すきっかけになると嬉しいです。

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