今の話

ウミガメのスープにミントを添えて

ハウスダンスインストラクター万里の日記

「はい、万里さん。大事に育てるのよ」

先日、会員さんからミントの苗を頂きました。

ミント栽培に挑戦して一ヶ月で全滅させた去年の夏。ふふ、懐かしいな。

ほろ苦い記憶を思い出しながら頂いたミントを見て言葉を失いました。

だって、僕の育てていたミントと見た目が全く違ったんですよ。

みずみずしく大きな葉っぱ。

太くてしなやかな茎。

葉を軽く撫でただけで漂う爽やかな香り。

対して僕が育てていたミントは

カサカサで小さな葉っぱ。

硬くて細い茎。

葉を軽く撫でただけで漂う刺激臭。

でしたからね。

「このミント本当にすごいですね!」

「そう?普通じゃない?」

「すごいですよ!尊敬します!」

大袈裟ね、と笑う会員さん。

「ミントはどんな環境でも育つから。なんなら道端でも元気に生えてるわよ」

僕の栽培方法が道端よりも過酷だったと判明した瞬間でした。

「葉っぱ、一枚食べてごらんなさい」

そう言われて葉を口に入れて再び言葉を失いました。

だって、僕の育てていたミントと味が全く違ったんですよ。

噛むたびに鼻から抜けるヒンヤリとした香り。苦味はほとんど感じられません。

例えるなら、冷たい泉のような上品な風味。

対して僕の育てていたミントの味を例えるなら

小学3年生の頃に友達の阿部くんと『薬草ごっこ』と称して公園の草を食べた時のような青臭い風味

でしたからね。

「同じミントでもこんなにも味に違いがあるのか」そう思った瞬間、ある考えが頭をよぎったのです。

それはウミガメのスープ問題。

問題の内容を簡単に説明すると

“ある船乗りがレストランで「むかし海で遭難したときにウミガメのスープを食べたことがあったな」と思い出し、メニューにあった『ウミガメのスープ』を頼みました.

出されたスープはコクが強く美味しい。しかしその味は過去に飲んだスープと明らかに違う。

果たして、あの時自分が飲んだのは本当に『ウミガメ』だったのだろうか。

もしかしたら別の『何か』だったのではないだろうか……

すべてを悟った船乗りは、その夜自ら命を断ってしまいました。”

という有名な水平思考(ラテラルシンキング)クイズです。

「万里さんどうしたの?すっかり黙っちゃって」

心配そうに僕の顔を覗き込む会員さん。

「いや、あの、あれ?」

僕の背中を氷のような冷たさが走りました。

頂いたミントは清涼感が強く美味しい。しかしその味は過去に育てていたミントと明らかに違う。

果たして、あの時自分が育てていたのは本当に「ミント」だったのだろうか。

もしかしたら別の『何か』だったのではないだろうか……

僕は相変わらず言葉を失ったまま、ミントを噛み続けたのでした。

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