デパートで
「乗りまーす!」
って駆け込んだエレベーターの中が修羅場でした。
大学生くらいのカップルが泣きながら別れ話していたんですよ。
ドッキリだろこんなの。
いやね、室内に入った瞬間イヤな予感はしたんです。
なんか空気ヘンだなって。ピリついてんなって。
「ワタシ…別れたくないよ!」
泣きながら両手で顔を覆う女性。
「泣くなよっ!俺だって…」
男性は声を荒げて女性の手を掴み引き寄せようとしましたが、彼女は振り払ってそれを拒否。ドラマみたい。
しゃくりながら泣く彼女。
舌打ちして壁を叩く彼。
ビクンッてなる僕。
もーヤダ。
密室で他人の痴話喧嘩に巻き込まれるとか居心地が悪すぎ。
僕はただ5階に行きたいだけなんだよ。
なのにカップルが邪魔でボタンが押せない。
それどころか、どのボタンも押されてないからエレベーターが微動だにしません。
なんで僕たち停電でもないのにエレベーターに閉じ込められてんの?
このままじゃラチがあかないので声をかけました。
「あの、すみません!」
勇気を振り絞って大きめに。
そしたら2人に睨まれまして。「んだよ空気読めよ」的な感じで。
え?僕が悪いの?
しかも更に驚いたのは彼女の目ね。
全く泣いてませんでした。
アイラインも全然滲んでません。つけまつ毛なんてキレイなもんです。バッサバッサしてんの。なにそれ針葉樹?
「5階、押してもらっていいですか」
「……」
不機嫌そうに乱暴にボタンを押す彼女。
再びビクンッてなる僕。
もー本当ヤダ。
このエレベーター超怖いんだけど。
タワー・オブ・テラーの比じゃないんだけど。
エレベーターが止まり、扉が開くと同時にダッシュで外に出ました。
「(やっと地獄から解放された…)」
背後で扉の閉まる音がした瞬間、再びイヤな予感がしたんです。
そしてこの予感は的中しました。
おそるおそる振り返ると
僕が降りた階、3階だったんですよ。