「あの、いいですか…?」
今日の夕方、JR本八幡駅のホームで制服姿の見知らぬ女子高生に声をかけられました。
「えっと、その…」
下を向き、言い出しにくそうにモジモジする姿。
これ確実に逆ナンですわ。
最近みんな忘れてるっぽいし、なんなら自分でも忘れてたりするんですけど、僕の職業ってプロダンサーじゃないですか。
きっと彼女はYoutubeなりブログなりで僕を知っていたのでしょう。
もしかしたら『家族の誰かが僕のレッスンに参加していて、食卓では僕の話題で持ち切り』なんて可能性もあります。
そんな僕が、夢にまで見た憧れの万里さんが目の前に居るんです。
そりゃ声をかけますよね。かけざるを得ませんよね。
普段は内気なあの娘もちょっぴり大胆になるんですよ。
だって夏ってそんな季節ですから。
「どうしたんですか?」
動揺させないように優しく声をかけると、彼女は予想もしなかったセリフを口にしました。
「服にセミがとまってますよ」
彼女が指をさした左袖には二匹のセミ。
しかもよく見ると
交尾
していました。
そりゃ見ず知らずの他人に
「あなたの洋服でセミが交尾してますよ」
なんて言い出しにくいわ。
「うわマジだ。ありがとうございます。助かりました」
冷静を装いながら女子高生にお礼を言い、ホームの端までゆっくり歩いてから
『セミ 交尾 時間』
とスマホ検索しました。
とんでもない性癖の検索履歴みたいですよね。
なぜこんな事を調べたのかというと、彼らの交尾が終わるのを待つことにしたんです。
だってセミ達も命がけでやっとパートナー見つけたのに、ちょうどいい場所がなくて仕方なく僕の袖でメイクラブしたんだと思うんですよ。
そんな二匹を引き離すのって可愛そうじゃないですか。
そしてヒットした検索結果に愕然としました。
『セミの交尾は10分から30分間ぐらい』
いや長げぇよ。
なにかの間違いだろうと思い、今度は試しに
『カブトムシ 交尾 時間』
で検索すると
『カブトムシの交尾はおよそ1時間』
と出ました。
もっと長げぇ。
そして俺の検索履歴がいよいよヤバい。
え、虫の交尾ってそんな長いの?
そんな長時間も無防備な状態でいたら捕食されない?
バカなの?
身近な虫たちの意外な生態を知って複雑な心境になっていると、左袖のセミ達は飛び立っていきました。
僕がセミに気がついて5分も経っていません。
逆算すると結構な時間を交尾中のセミをつけたまま過ごしてたってことになるんですけど、まぁ彼らも無事に子孫が残せそうで安心しました。
まったく。
人目もはばからず、というか人の洋服の上で交尾するなんて。
「夏だからって大胆すぎるだろ」
夕日に向かって飛んでいくセミ達を見てると自然と言葉がこぼれました。
いよいよ8月も後半戦です。
今年の夏も素敵な思い出ができました。
【今年の夏の思い出】
交尾してるセミをつけた状態で女子高生に逆ナンされたと勘違いする。