先日、小田急線に乗っていたら僕の右隣の女性が小さな咳をしました。
彼女はマスクをしていたし、咳エチケットとして口元をタオルで覆っていました。
なにより僕と十分な距離があったので気にしなかったのですが、僕の左にいた男性が車両中に響くほど大きな音で「チッ」と舌打ちをしてきたんです。
僕の顔を睨みながら。
そう、彼は僕が咳をしたと勘違いしたんですね。
しかしこの状況で「僕じゃないですよ」とか言えないじゃないですか。
だって咳をした女性は男性の舌打ちに萎縮してオロオロしてるんですよ。
それなのに「咳したの僕じゃありませんよ。彼女ですよ」なんて言ったら男として最低じゃないですか。むしろ、そんな困ってる人を守ってこそ『男』であり『漢』じゃないですか。
そしてみんなは僕をよく知ってるのでわかると思うのですが、僕って戦って守るよりも自分を犠牲にする『盾のように守るタイプ』の漢なんですよね。
というわけでA.O.M(オートマチック・オトコギ・モード)になった僕は
『僕が謝れば彼女も他の乗客も不快な思いをしなくて済む。なにより面倒ごとを回避できる』
と即座に判断し
「すみません」
とスマートに謝りました。
そして結論からいうと、面倒なことになりました。
みんなは僕をよく知ってるのでわかると思うのですが、僕ってこういうの裏目に出るタイプの漢なんですよね。
僕が謝ると、男性はさらに大きい舌打ちをして睨みつけてきました。
彼の視線をバッチリ感じながら「(トラブルはイヤだなぁ。次の町田駅で一旦降りて車両を変えるか)」なんて考えていると、隣の女性が再び小さな咳をしました。
さっきと全く同じトーンと、大きさの咳。
女性は咳をしたあとすぐに車両を移ったので、もしかしたら僕を助けるためにワザと咳をしたのかもしれません。
男性の方を見ると、自分が勘違いしていたことに気がついたらしく、僕から目をそらしてバツが悪そうにソワソワしていました。
「あぁ、誤解が解けたんだ。良かったなぁ」ホッとしていると電車は町田駅に到着。
ドアが開くと同時に男性は僕に近づいてきて
「テメェふざけんなよ」
と大きめの声で捨てゼリフを吐き、降りていきました。
ーーー予想外の出来事に何が起きたのか理解できませんでした。
てっきり『さっきはごめんね』的な謝罪でもするのかと思ったんだけどマジでなんなのこれ。ただの八つ当たりじゃん。
大人なんだから自分の非を認めようよ。
せめて捨てゼリフはやめようよ。
みんな僕を見てるじゃん。
電車に残された僕の身にもなれよ。
色んな思考が頭の中を駆け巡りましたが、目的地である相模大野駅に到着した頃には冷静さを取り戻していました。
この立ち直りの早さ、さすが『漢』ですよね。
だって、こういうトラブルもよく考えたら僕にとっては『いつも通り』のことだったんです。
みんなは僕をよく知ってるのでわかると思うのですが、僕の日常って基本的にトラブルに巻き込まれるじゃないですか。
自粛生活が長くて忘れかけていましたが『流れ弾に当たってナンボ』みたいな生き様じゃないですか。
つまり今回のトラブルは『徐々に日常に戻りつつある証拠』だったんです。
そう考えると、あの男性の舌打ちも『春の訪れを告げるウグイスの鳴き声』的な心地よさすら感じられました。
で、みんなに聞きたい事があります。
みんなは僕をよく知ってるのでわかると思うのですが、
僕の日常ってこんなツラかったですっけ?
全然立ち直れていないので、ぜひ教えていただけると助かります。