押上駅のホームでのことなんですけどね。

電車を待っていたら背後から声をかけられたんです。

「エクスキューズミー」

って。

振り返ると外国人カップル。彼女さんが「キャン ユー スピーク イングリッシュ?」と、路線図を片手に微笑んできました。

僕は英語が苦手。それ以上に苦手なのが電車の路線説明。

特に押上駅での乗り換えはややこしいんですよ。いまだに電車を乗り間違えるし、月に一回くらいは各駅停車に乗るべきところをうっかり快速に乗ってしまい青砥まで連れていかれています。

そんな僕には乗り換えを英語で説明なんて出来っこないので

「ノー、アイキャント。ソーリー」

とお断りしました。

すると彼女は「オーケー」と頷いてから「ペラペラペラペラペラペラ」って。

オカシくね?

「英語ができるか」と聞かれてキッパリ「できない」と断ったのに、なんで英語で質問を続けるの?

日本男児らしくもう一度ハッキリと断ってやる!本物の外交交渉ってやつを見せてやるよ!

そう決心し、ガツンと言ってやりました。

「ソ、ソーリー。アイキャント。ソーリー」

涙声で。

そしたら彼女、今度は

「ペラ、ペラ、ペラ、ペラ!」

と、周りの人達が振り向くくらい大きい声でハッキリと話してきて。

違うんです。そうじゃないんです。聞き取れないとかじゃなくて英語が出来ないだけなんです。僕は鎖国を貫く令和最後の「ラスト・サムライ」なんです。

これ、英語でなんて説明すればいいの?

とりあえず「アイアム サムライ」で、そのあとに「シャラップ」でいいんだっけ?ダメ?

横にいた彼氏さんに目でSOSの合図を送ると、彼氏さんはウィンクを返してくれました。

その時は彼が仏様に見えましたね。金髪で腕にドクロのタトゥー入ってたけど。

これで一件落着。

と思ったんですがこの仏様、かなり好戦的だったみたいで僕の目の前でホームの時刻表ボードをバンバン叩きながら彼女さんと口論し始めたんですよ。

ビクンッてなりました。泣くかと思った。

オロオロしてたら「Narita」という単語が奇跡的に聞こえて。

この二人は成田空港に行きたいのかと閃き、「ナリタ? ナリタエアポート!?」と聞いたら二人とも

「「YES! YES!!」」

と親指を立ててくれました。

なるほど。だったら話が早い。

「この電車じゃなくて、次の電車だよ」

そう言いたかったんですが、焦れば焦るほど「次」という単語がなかなか出てこなくて。

仕方ないので、停車している電車を指差して

「(この)トレイン(の、次の)トレイン!」

と何度も連呼してしまい、結果的に

突然ブルーハーツの「Train Train」を熱唱する日本人

みたいになりました。

すると僕の乗る電車もホームに到着して。

あ、ヤバい乗らなきゃって時に「ネクスト」って単語を思い出したんです。

「ネクスト! ネクスト トレイン!」

叫ぶとカップルは笑顔で

「「オーケー! サンキュー!!」」

と応えてくれました。

良かった終わった助かった!

僕も電車に飛び乗り、達成感に満たされた気持ちでホームを振り返ると

カップルは駅員さんに聞いていました。

どうやら僕、なにも達成してなかったみたいです。

閉まるドア。走り出す電車。

「やるだけはやったんだ。それだけで良しとしよう」

そう自分に言い聞かせ、涙が溢れないように上を向いたら車内の電光掲示板には

【快速 : まもなく青砥】

の文字。

へへ、ちょっとだけ泣きました。