「エクスキューズミー」
新宿の地下街。
トイレから出た瞬間、後ろから声をかけられました。
振り返ると僕より背の高い外人女性が4人。
その中の年長(30代前半くらい)の女性がスマホを見せてきました。
画面には翻訳アプリで『地上の出口を教えてください』の文字。
Spanish→Japaneseとあったのでスペインからの観光客でしょう。
断ろうとしました。
だって僕も迷子だから。
僕のスマホが電池切れだっため、彼女の翻訳アプリで「他の人に聞いてください」と伝えようとしたら、スマホをしまわれてしまいました。
「オーケー?」
僕の目を覗き込むように聞いてくるスペイン女性。
ノーと言わせない圧を感じましたが、こちとら日本男児じゃないですか。日の丸を背負って生きてるじゃないですか。
だからハッキリと言ってやりましたわ。
「オーケー」
って。
しかも震え声。
自分で言うのもなんですけど、もしも『弱気』という競技種目があれば確実に金メダルを獲っていたでしょうね。
こうして新宿地下街を舞台とした僕とスペイン女性4人組との
リアル脱出ゲーム
が始まったのです。
***
僕の後ろからついてくる彼女達。
「日本人が自国で迷うわけない」とでも思っているのか、余裕の表情で看板などの写真を撮っています。その安心感のプレッシャーがすごくツラい。
たまに年長者の女性が話しかけてきましたが、スペイン語なのでわかりません。
とりあえず「オーケーオーケー。アーハン、オーケー」と親指を立てると、相手も笑顔で親指と人差し指でOKサインを作ってくれました。
事情を知らない人から見たら、きっと僕は『外国人観光客を案内する頼れる日本人』に映るでしょう。
ウソみたいだろ。迷子なんだぜ。
いっそのこと「ソーリー」と謝ってダッシュで人混みに紛れて逃げるか?いやダメだ。スペインは牛追い祭りの国。僕なんかすぐ追いつかれる。
ていうか『牛追い祭り』って牛が人間を追うんだから、人間の立場からしたら『牛追われ祭り』が正しい表現だよな。
そんな現実逃避みたいな事を考えながら歩いてたら到着しました。
地下鉄の改札口に。
地上への出口じゃないの。むしろ地下への入り口なの。
人混みの流れに乗ったのが裏目に出ました。
迷った空気を察したのか、後ろでヒソヒソと話し出す女性陣。
「コイツ、実は道案内できないんじゃないの?」なんて話し合っているのでしょうか。このままだとトマトをぶん投げられる(トマト祭り)
咄嗟に視界に入った上りエスカレーターを指差して「レッツゴー!」と呼びかけると、みんなホッとした表情で「OK!」とついて来てくれました。
このエスカレーターがどこに出るかはわかりません。しかし上りである以上は地上に近づくはず。
ちなみにエスカレーターには以下の図のように乗りました。
【図】
↑|●●|↑
↑|◯ |↑
↑|●●|↑
● …スペイン女性
◯ …万里
なんでだよ。
僕を挟んで頭越しに身振り手振りのジェスチャー全開で喋る女性達。
僕の半径1メートルだけスペインっぽいんだけど、ここ新宿だよね?アンダルシアとかじゃないよね?
苦し紛れに乗ったエスカレーターは奇跡的に地上に出ました。
***
「フーーーッ!」「ィヤーーーーッ!」
地上に出た瞬間、テンションMAXで歓喜の声をあげる女性陣。
僕も嬉しくてちょっと泣きそうになりました。
「¥&@€£$%#!」
別れ際、皆んなすごい感謝してるっぽいけどやはり何を言ってるかわかりません。
とりあえず定番の「オーイェー、ハバ ナイス トリップ(良い旅を)」と返すと、皆んなめっちゃ手を振って歩いて行きました。
4人の背中を見送ってホッとした途端、再びトイレに行きたくなったのでルミネのトイレに向かったのですが、
またしても迷子になってしまいました。
もしも『迷子』という競技種目があれば確実に2個目の金メダルを獲っていたでしょうね。
自分で言うのもなんですけど。