夢を見ました。
猫になる夢。
猫のように丸くなって寝たからかもしれません。
夢の中の僕は寿命が尽きる直前。
お気に入りの毛布に包まれ、飼い主に抱きしめられていました。
少しだけ呼吸が苦しく、身体も重い。
だけど不思議と心は穏やかでした。
見上げるとボンヤリとあの人の顔。
目が霞んでよく見えません。
でも確かに大好きなあの人の顔が、そこにありました。
時折ポタポタと顔に落ちる水滴。
あぁ。
あの人が泣いている。
「泣かないで」
伝えたいけど声が出ない。
焦点の合わない目で見つめる事しかできない。
どうか、どうか泣かないで。
顔に落ちる水滴は止みませんでした。
あなたのおかげで私は幸せでしたよ。
美味しいご飯も沢山食べたし、マッサージも気持ちよかった。
一緒に寝るのが大好きだった。
病院や点滴は正直イヤだったけど、終わったらオヤツを食べさせてくれたから許してあげる。
ワガママばかりでごめんね。
いつも笑顔で相手してくれてありがとうね。
また会えるから。
必ず会えるから。
だから泣かないで。
たくさん伝えたい事があるのに鳴き声の一つも出ません。
一言でも喋れたら、あの人の涙を止めることが出来るかもしれないのに。
ひと鳴きでもいい。
声よ、出て。
お願いだからーーー
ーーーそう強く願ったところで目が覚めました。
額には汗がジットリ。
「夢…だよな」
心臓の鼓動が速い。
最期の瞬間、大好きな人に想いを伝えられないとはなんて恐い事なのでしょう。
「そうだ、伝えたかった言葉!」
寝ぼけながらサイドテーブルのノートパソコンを開きキーボードを叩きました。
あの人に伝えなきゃ。あの人に…
…あの人って、誰だ?
夢の中で見た飼い主は誰だったのだろう。
僕は誰に向けて、この言葉を書くのだろう。
指を止めて『夢の中の飼い主』の記憶を辿るも、ボンヤリとした顔の輪郭しか思い出せません。
そしてある考えが浮かびました。
飼い主の正体は『僕』だったのかもしれない、と。
友人からペットとの別れを聞くと僕は
「あの子は幸せでしたよ」
「天国であなたの自慢をしてますよ」
「必ずまた帰ってきますよ」
ペットの気持ちを代弁するかのように話してきました。
でも本当は僕がそう思いたかったんです。
✳︎
最期の夜、僕は大河(飼い猫)を抱きしめて名前を呼んでいました。
あの子が大好きだったピンクの毛布にくるみながら。
「ありがとう」と沢山言いました。
「また会おうね」と約束しました。
「待ってるからね」と念もおしました。
でもつい「行かないで」と言葉がこぼれたんです。
その瞬間、押さえ込んでいた感情が一気に溢れ出して、涙が止まらなくなって。
「死んじゃう、大河が死んじゃう」
大声で泣きました。
子供みたいにワンワン泣いて、涙はポタポタと大河の顔に落ちました。
✳︎
あの時、僕は大河に
「幸せだった」って。
「自慢の飼い主だった」って。
「また帰ってくるからね」って。
そう言って欲しかったんです。
でもこの夢を見て確信しました。
あの時の大河の気持ちは、夢の中の僕と同じだったと。
きっとこの夢も大河が
「なんか納得してないみたいだから、あの時わたしが何を考えてたか教えてあげる。逆の立場になればよくわかるでしょう。ていうか、そもそも飼い主なんだから言葉にしなくてもわかりなさい」
と見せてくれたのかもしれません。
だからこの「伝えたかった言葉」は僕と、僕と同じ経験をした飼い主達に向けて書きます。
あなたは大切なペットと別れを経験し「あの子は幸せだったのかしら」と不安になったことはありますか?
大丈夫。
あの子も、きっと夢の中の僕と同じ事を伝えたかったはずですよ。
「泣かないで。私は幸せでしたよ」
って。