あれは昨日の事でした。
「久しぶり。時間ある?どこにも行けなくて運動不足だからちょっと散歩でもしようぜ」
昼ごはんを食べてノンビリしていたら友人からメールが来たんです。
僕も仕事がオフで時間があったから「オーケー」と返事してコンビニで待ち合わせ、コーヒーを買ってブラブラ歩きながら話をしていたんです。
「万里さぁ」
「うん?」
「ひさびさに会ったらさ、どんどん野生化したね」
「てめぇコーヒーぶっかけてやろうか」
と思いましたがグッと堪えて冷静に会話を続けました。
「あぁ、そうかもしれない。ところで具体的にはどういう事なんだい?』
「なんていうの?ゴリラっぽい?」
「なるほどね。確かに最近は自宅で筋トレばかりしてるからゴツくなったかもね」
「いや体型じゃなくてさ。歩き方っていうか動きが野生のゴリラっぽい」
ーーーそのセリフを聞いた時、僕は自分の耳を疑いました。
だって僕の職業はプロダンサーじゃないですか。動きで人を感動させる仕事じゃないですか。
多くのコンテストで入賞しメディアでの仕事もこなして現在も絶大な人気を誇るダンスインストラクターとして活躍する『ダンス界のプリンス』こと皆のアイドル万里じゃないですか。
こんなん言われたら僕のこと全否定じゃないですか。
さすがにこの発言には反論せざるを得ませんでした。
「いやいや動きって。オレの仕事ダンサーよ。プロダンサー。『カッコイイ』言われてナンボのビジネスよ。この動きでゴハン食べてるの。それを野生て。ゴリラて。お前それ本物のゴリラの前でも言えんの?」
「万里のハウスダンスは確かにカッコいいと思うよ。でもさ、踊ってない時、ハウスダンス以外の動きはどうなのよ?」
グゥの音も出ませんでしたね。
「…どこら辺が、ゴリラっぽいのかな」
「………」
「いやなんか言えよ」
「あ、そうだ待ってて」
友人は立ち止まってスマホで何かを調べてから僕に画面を見せてきました。
画面にはゴリラの写真がたくさんありました。
どうやらグーグルで画像検索したようです。
「ほらな」
「いや『ほらな』じゃないから。あとこれじゃ似てるの動きじゃなくて見た目だから。あとなんだよお前の検索ワード『ゴリラ 人間 違い』て。オレとゴリラの相違点は調べなきゃわからないくらい曖昧なのかよ」
「なんだよ認めたくないのかよ。万里は一体何になりたいんだよ」
「オレは何になりたいとかじゃなくて人間なんだよ!!!!」
「ほら、急に奇声あげたりするところとかゴリラっぽいよ」
「コレは奇声じゃなくて怒ってるの!!」
それを聞いた友人はケラケラ笑い、僕の悲痛な叫びは大都会に落ちる温かい夕陽の中に溶けていきました。

出発したのはお昼過ぎだったので3時間以上、15キロ近く歩き回っていたんですね。
全然『ちょっと』のレベルの散歩じゃなかったんですよ。